メンヘラは風邪をひかないという都市伝説がある。
たしかにメンヘラは常に具合が悪いし寝込むしちょっとしたことですぐ大騒ぎして通院するし、自律神経失調症や過呼吸やメニエール病や更年期障害にはなるけど、ちょっと熱がでてモモ缶とプリン食べて一日寝てたら治る、みたいな普通の風邪ってあんま引かない気がする。ていうか健全な風邪をひいたメンヘラってみたことない。
一般に風邪と呼ばれている曖昧な体調不良はそこらにウヨウヨ漂っているさほど強くない細菌やウイルスに感染して起こる、とされている。医者としてもたかが風邪なんかにいちいち精密検査なんてしないから、感染も無く臓器にも異常があるわけでもないのになんとなく具合が悪いという原因不明の症状が風邪と診断されることも多いだろう。実際、風邪の市販薬の多くは消炎鎮痛を目的とした対処療法作用しかない。
つまり、風邪というのは疲れた体がリフレッシュするための、いわば体の有給みたいなシステムだ。
で、メンヘラをメンヘラたらしめる所以というのはひとえに休み下手な点にある。
健全な人間が簡単にこなせる日常会話で一人だけがっつり消耗する。健全な人間がぐっすり寝て回復している時間に悪夢を見てさらに消耗する。メンヘラとして生きるということはRPGでいうところの毒状態みたいなもので、何をしてもしなくても勝手に消耗し回復薬も無効になるような状態だ。
ただし、これはメンヘラが休み下手な人種であるということではない。メンヘラはたいてい過酷な環境で生きている。いつ怒鳴られるか殴られるか分からないような状態でぐっすり安眠なんてできない。一見ごく普通の家庭に育ち普通の格好をして普通に仕事をしていながら、普通とはかけ離れた過酷なサバイバルをしているのがメンヘラという人種だ。
過酷な状況で緊張して生きることに慣れすぎてしまったメンヘラは環境が変わっても適応できず、過去の状況を再現し続ける。だから、メンヘラは安全な場所を手に入れても安眠することができない。
だから、メンヘラは風邪を引けない。
熱が出て頭がぼんやりして節々が痛くて食欲が無くて眠い、なんていう無防備な状態になることができない。結果として常に緊張してHPを削り続けある日ぽきりと折れる。
私自身、普通の風邪を引けるようになるまでにはとても時間がかかった。いまでも上手に風邪をひくのは難しい。すごい勇気がいる。でもちゃんと風邪を引けると、想像を絶するスッキリ感があるのでもうちょっとがんばってみたい。